Vol.1
2019年6月12日 西南学院大学コミュニティーセンターにて 講師:緒方克也先生
障がい者のアート活動についての勉強会
2019年6月12日
障がい者の方々の身体的なケアとサポート、アート活動の在り方について意見交換をしようと、福岡県内で福祉施設を運営する社会福祉法人や医療法人、NPO法人、大学教授、一般企業から29名の参加者が集まりました。第一部では「社会福祉法人JOY明日への息吹」理事長の緒方克也さんより講話があり、第二部では約1時間にわたって参加者全員でディスカッションを実施。現場スタッフや責任者、それぞれの視点から語り合うことで、現状の問題点や今後の課題が明らかとなりました。
【講 師】社会福祉法人JOY 明日への息吹 緒方克也
【日 時】2019年6月12日(水)17:00~20:00
【場 所】西南学院大学
【主 催】鎌田恵務
【第一部】障がい者のアート活動において留意すべき問題とは?
講師を務める緒方克也さんは知的障がい者通所授産施設「JOY倶楽部プラザ」を設立し、音楽活動をする「ミュージック アンサンブル」とアート制作をする「アトリエブラヴォ」の2つのグループを通して障がい者のアート活動を支援しています。
今回の勉強会に向けて合計62ページのスライド資料を用意し、約1時間に渡って「障がい者のアート活動と生活支援」ついて講話をしました。導入では「障がい者のアート活動を進めるうえでの課題」が明示され、その他「国家機関がどんな取り組みをしているか」「厚労省の見解」などについて言及。適切な支援体制のためには何が必要なのか、「個別支援計画の立て方」や「具体的な到達目標と支援計画」といった現実的な支援方法を紹介しました。
また、緒方さん自身がデータを取った調査結果に基づいて「障がい者の規範意識」についての発表もありました。これは、緒方さんが相談支援専門員の立場で某A型サービス事業所で見かけたあるシーンをきっかけに調査したものです。
人のものを盗ってしまった通所者と、その行動について厳しく注意をする職員のやり取りを見ていて「叱られている方はいけないことをしたと理解しているのか」と疑問に感じ、知的障がい者への注意喚起や叱責がどの程度、妥当だとされるのか問題意識を持ったことから調査はスタートしました。
調査の方法は知的障がいを持つ109名に対して、「運動をするのは体にいいことです」「ご飯を食べ過ぎるのは体にいいことです」「人のものを黙って借りるのはいいことです」といった質問を口頭でして、「はい」「いいえ」「わからない」の3択で返答してもらうもの。
比較対象は、IQが同程度とされる5~6歳の年長児。年長児が理解していても、知的障がい者が理解していない社会規範や生活規範があり、この調査の結果、IQで一概に区切るのではなく障がいの特性を理解し、配慮することが重要だと結論づけられました。
その配慮はアート活動においても重要なことだと緒方さんは話します。たとえば、発達障がいと知的障がいの特徴は全く異なり、それぞれの特性によって創作活動への取り組み方やできあがる作品も変わる。また、知的障がいがあるからこそ得意な分野があり「独自性や独創性」「平和主義で単純明快」「正直で率直」といった例が挙げられました。講話の最後には、障がい者アートの「社会的意義」は何かというテーマがについて深く考察され、後半のディスカッションへと移りました。
【第二部】アート活動のゴールをどこに据えるべきか
30人近くの参加者がコの字型に机を囲み、主催者・鎌田恵務さんをファシリテーターにディスカッションが始まりました。福祉の現場でアート活動の支援をしているスタッフや現場の責任者の間では「施設利用者の体力面や健康面で気をつけていることは?」といった日常生活での支援に関する質問や「創作中の気分転換はどうしているか」といったアート活動中の具体的な支援について意見が交わされました。
また、保護者や家族との面談の際に話題になる「今後のこと」や「将来のこと」。体力・健康面でアート活動が続けられなくなったときにどうやってサポートをするのか、アート活動をその人の自己表現の手段として長く継続していくためにどんな支援が必要なのかについても議論されました。
討論されたテーマの中で特に活発な議論がされたのは「アート活動の目的」についてです。創作はその活動自体が目的であって、作品を販売をしたり展示したりして利益を得るのが目的ではない。活動の原点は楽しさや面白さを味わうこと、表現を楽しむこと、また自分がつくった作品によって社会との接点が生まれ、人とのコミュニケーションが生まれること。
しかし、その一方で作品が収益につながり、施設利用者の工賃になれば本人の収益が増えて生活の質を高めることができる。快適な暮らしのためにお金を生む手伝いをすること、日常を面白くするために本人が望むアート活動を支えること、どちらも重要なテーマとしてディスカッションを進める中で、参加者の理解と意識は深まっていきました。
最後には、障がい者のアート活動を支援する人に求められるのは「感性を引き出す力」「見出す力」「プロデュースする力」と定義され、「私たちがやらなければならない仕事はまだまだたくさんある。福岡の人、全国の人に彼らの作品の価値を分かってもらうための努力をしていくことも重要な仕事だ」という緒方さんのコメントで締めくくられました。
チカラ:ライター 古林 咲子
おがた かつや
1947年生まれ。熊本県出身。社会福祉法人JOY明日への息吹 理事長
【学歴】
神奈川歯科大学卒業・神奈川歯科大学助手(麻酔学)・歯科医師免許取得
医学博士
【略歴】
福岡市にておがた小児歯科医院を開設、福岡歯科大学講師
中央福祉学院卒業・福岡障害者相談支援員、松本歯科大学教授(障害者歯科学)
岡山大学臨床教授、九州大学講師(障害者歯科学)
児童発達支援施設joyひこばえ施設長・障害者相談支援事業所相談支援専門員
日本障害者歯科学会理事長、障害者福祉サービス事業所JOY倶楽部施設長
【受賞歴】
1995年 キワニス社会公益賞・2003年 障害者歯科学会優秀論文賞
2009年 読売文化福祉賞・ 2009年 西日本文化賞 ・2016年 福岡県産業教育賞
【著書】
『地域で診る障害者歯科』
『チェアーサイドの創造性 デンタルスタッフのオフィスノート』
『スタッフ教育のソフトウエア』
『お母さんに知ってほしい子どもの口と歯のホームケア』
『かかりつけ歯科医のための小児歯科マニュアル 第2版』
『絵カードを使った障害者歯科診療 視覚支援の考え方と実践』
【参加施設及び参加者名】(敬称略)
・社会福祉法人 若宮福祉会 障害者支援施設
若宮園 渡明雅副施設長 小林義樹
・社会福祉法人 福岡市手をつなぐ育成会 障害福祉サービス事業所 ひまわりパーク六本松
今林施設長 山中理恵 平田美紀
・社会福祉法人 共栄福祉会 障がい者支援施設 板屋学園
椎葉亮施設長
・医療法人 清明会 障害福祉サービス事業所 PICFA(ピクファ)
原田啓之施設長 升本好昭
・特定非営利活動法人まる 工房まる
武田楽 吉武聡
・社会福祉法人 葦の家福祉会 障がい福祉サービス事業所 生活介護事業 葦の家
小関正利施設長 友廣道雄 是永匠吾 石本花織 佐々木篤
・えーる油山
中司隼人 山内恵美子
・NPO法人 列島会 創造館クリエイティブハウス おきらく工房
中村満美
・社会福祉法人 JOY明日への息吹 障害福祉サービス事業所 JOY倶楽部
小倉尚巳 多伊良さつき 田川弘宣 古米有香 松尾さち
・西南学院大学
片山寛教授
・株式会社 LITALICO
田中由香
・株式会社 チカラ
元木哲三代表取締役 古林咲子